ご挨拶
日本HPHネットワーク CEO 近藤 克則
千葉大学 予防医学センター 健康まちづくり共同研究部門 特任教授
一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構
研究部長(併任)
ヘルスプロモーションとは、WHO(世界保健機関)がオタワ憲章(1986)やバンコク憲章(2005)で提唱した健康戦略です。「健康増進」という訳語から多くの人が思い浮かべるのは、健康教育などを通じて運動や減塩、禁煙を人々に促して、より健康にすることでしょう。しかし、ヘルスプロモーションの定義や優先行動分野を見ると、ずいぶんと異なることがわかります。
ヘルスプロモーションとは、「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセスである」と定義されています。5つの優先行動分野には、「個人の能力の開発」に留まらず、「地域活動の強化」「健康を支援する環境づくり」「ヘルスサービスの方向転換」「健康的な公共政策づくり」で、個人対する働きかけはごく一部に過ぎず、社会・経済・地域環境、ヘルスサービスや政策への介入を重視しています。そこで、HPH(Health Promoting Hospitals and Health Services)関係の文書やこのウェブサイトでは、「健康増進」でなくあえて「ヘルスプロモーション」とか「Health Promotion」など、カタカナや英語で表記しています。
このヘルスプロモーションに取り組む場として、ヘルシーシティ(まち)、ヘルスプロモーティングスクール(学校)等と共にWHOが提唱したのが、ヘルスプロモーティングホスピタルとヘルスサービス(Health Promoting Hospitals and Health Services,HPH)です。 「ヘルスサービスの方向転換」をできるのは、ヘルスサービスを担う医療専門職や医療機関、診療所や薬局、健診センター、介護事業所などのヘルスケアサービスの提供機関です。HPHでは、患者や利用者、地域住民、さらには職員も対象に、予防、プライマリヘルスケア、持続可能な環境(グリーンヘルスケア)を推進することを目指しています。第10回ヘルスプロモーション世界会議(2021)の「ジュネーブ ・ ウエルビーイング憲章」では、5つの主要な行動の中に、「デジタル変革」「地球を大切にし守る」(Planetary health,地球の健康)に取り組むことなどが奨励されています。
第30回となる国際HPH会議が、2024年11月6-8日に広島で、“The Contribution of Health Promoting Hospitals and Health Services to Health Equity”をテーマに開催されます。日本が世界一の長寿国になれたのには、実は多くのヘルスプロモーティングな取り組みが日本社会にはあったからだと考えられます。この国際会議を機会に、多くの医療機関やヘルスサービス提供機関にHPHにご参加いただき、日本社会における「健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」を見つめ直し、教訓を世界に発信しつつ、日本におけるヘルスプロモーションをいっそう前進させる機会となることを願っています。
参考文献
Health promotion glossary of terms 2021. Geneva: World Health Organization; 2021. https: //www.who.int/publications/i/item/9789240038349 License: CC BY-NC-SA 3.0 IGO.
ヘルスプロモーション 用語集(日本語訳) 2021
更新日:2024年5月10日