日本HPHネットワーク紹介
日本HPHネットワーク 日本コーディネーター 舟越光彦
公益社団法人福岡医療団 理事長・千鳥橋病院 予防医学科科長
日本社会は、超高齢化と健康格差の拡大という大きな健康問題に直面しています。それに応じて、病院、診療所などのヘルスサービスにも役割の大きな転換が求められています。
第一に、ヘルスサービスが、治療や看護などの従来の活動に加えて、ヘルスプロモーション活動に取り組むことです。超高齢社会は、複数の慢性疾患や障害を抱えながら生活する高齢者が多数となる社会を意味します。ヘルスサービスは、「病気を治すこと」に加えて、「地域包括ケアの時代にふさわしく、病気を予防すること、病気や障害を持ちながらでも健康に人間らしく生活できるまちづくりに貢献していく」ことが求められています。
第二に、ヘルスサービスが、健康格差の克服に積極的に取り組むことです。健康格差は世界規模で広がり、国際的にも健康格差の克服は喫緊の課題となっています。健康格差の克服には社会の様々なセクターの取り組みが求められますが、ヘルスサービスが貢献できることも数多くあります。この間、日本HPHネットワーク(以下、J-HPH)で交流を重ねてきたカナダでは、医師会を挙げて健康格差克服の活動をしています。診察室では、患者の社会経済状態を問診し、社会資源の活用や専門家へつなぐことで支援をしています。社会に対しても、公正な医療の実現のために様々なアドボカシー活動を展開しています。日本でも、ヘルスサービスによる同様のアドボカシーの実践が求められています。
WHO(世界保健機関)の欧州地域事務局は、ヘルスプロモーションの視点でヘルスサービスがこのような課題に取り組むために、The International Network of Health Promoting Hospitals & Health Services(以下、HPH)という国際的なネットワークを1989年に開始しました。現在、欧州やアジアを中心に600を超える施設が加入し活動しています。ヘルスプロモーション活動の良好実践の国際的な交流、国際的な多施設研究の実践、ヘルスプロモーション活動の基準となる自己評価マニュアルの作成などが行われています。
日本でも、2015年10月にJ-HPHが結成されまた。目的として、「患者、職員、地域住民の健康水準の向上をめざし、住民や地域社会・企業・NPO・自治体等とともに健康なまちづくり、幸福・公平・公正な社会の実現に貢献する」ことを掲げています。具体的には、患者、職員、地域住民を対象としたヘルスプロモーション活動の交流。ならびに、国内カンファレンスの開催、研究、広報活動を行っています。多施設共同研究として、「患者さんの暮らしぶりに関する情報を把握するための、簡易質問項目の開発に関するパイロット研究」に取り組み、国内外の学会で発表するとともに、その成果物として、「医療・介護スタッフのための経済的支援ツール」と「症例事例集」を発行しています。また、韓国、台湾などの北東アジアのネットワークとの交流も広げています。さらに、ヘルスプロモーション活動は、医療の質の向上に寄与することが明らかにされています。そこで、医療の質に公正の概念を組み入れ、公正な医療の質を高めるための検討もすすめています。
日本には、医療機関が世界的にも先進的なヘルスプロモーション活動を実践してきた豊富な経験があります。超高齢社会のヘルスプロモーションの経験は、本格的な高齢社会を迎える諸外国にとっても有益なものになります。先人が築いた経験を引き継ぎ、ネットワークとしてヘルスプロモーション活動を通して幸福・公平・公正な社会の実現に国内外で貢献したいと考えています。多くのヘルスサービスがネットワークへ参加されることを心から期待しています。