日本HPHネットワーク紹介
日本HPHネットワーク 日本コーディネーター 舟越光彦
公益社団法人福岡医療団 理事長・千鳥橋病院 予防医学科科長
The International Network of Health Promoting Hospitals & Health Services(以下、HPH)は、WHO(世界保健機関)が1988年に開始した、ヘルスプロモーション推進のための国際的な医療機関のネットワークです。現在、30か国に600の施設が加入するネットワークです。
日本HPHネットワーク(以下、J-HPH)は、国際HPHネットワークの国・地域ネットワークとして2015年10月に結成されました。日本には、医療機関が病院の外に出かけて地域住民の健康水準の向上を進めてきた優れたヘルスプロモーションの実践例があります。また、経済的な理由で病院を受診できない患者さんに対して社会資源を活用した支援を実践するヘルスプロモーションの実践例も豊富にあります。このようなヘルスプロモーションの経験が豊富な医療機関が集まり、患者、職員、地域住民の健康水準の向上と健康なまちづくり、幸福・公平・公正な社会の実現に貢献するためにJ-HPHが結成されました。
結成後、J-HPHカンファレンスやWebセミナーの開催、ニュースレターの発行を通じて、ヘルスプロモーションに関する学びや、各施設の良好事例の交流を進めてきました。特に重視しているのは、健康の社会的決定要因(SDH)に関することです。医療現場でのSDHの介入を促進するために、「医療・介護スタッフのための経済的支援ツール」・「症例事例集」を作成し普及を進めました。また、新しい取り組みを水平展開することも重視してきました。カンファレンスの企画に「やさしい日本語」、「LGBTQと医療」、「ヘルスプロモーションの視点での地域分析」を取り上げ、企画の学びを全国の参加施設に普及することも積み上げてきました。さらに、「平和はヘルスプロモーションの前提条件」であり、平和に関する企画を継続的に取り組んできました。そして、結成約10年の節目にあたる2024年には、広島で第30回国際HPHカンファレンスを「健康の公正性を目指して~医療機関と介護事業所の役割~」をテーマに開催し、34の国・地域から800人の参加で成功することができました。
海外との交流も活発に進めてきました。日本は世界一の超高齢社会でもあり、高齢者に対するヘルスプロモーションの経験は海外の研究者や実践家にとっても大変貴重な情報となります。国際HPHカンファレンスでは、地域へのアウトリーチや高齢者の孤立予防の経験などの発表は大変高い評価を受けています。また、カナダの家庭医・研究者とはSDHに関して連携を強めています。2026年2月には、ヘルス・ジャスティス・パートナーシップ(Health-Justice Partnership、以下、HJP)を学ぶために、カナダ・トロントを訪問しました。今後、日本社会で健康格差対策の新たな手法としてHJPを広げていきたいと考えています。
2025年にWHOは『健康の公正性の社会的決定要因に関する世界報告書』を公表しました。健康格差が世界的に拡大するなかで、「健康の公正性」の実現には医療だけでなく、社会構造そのものの変革が必要であることを示した政策文書です。また、平和を「健康の公正性の根幹的な決定要因(fundamental determinant of health equity)」と位置づけたことも大きな特徴です。J-HPHがこれまで取り組んできた健康の社会的決定要因への対応や、地域との協働、平和を重視したヘルスプロモーションは、こうしたWHOの新たな方向性とも軌を一にするものといえます。
日本は超高齢社会と健康格差の拡大という課題に直面しています。こうした時代だからこそ、医療機関には「治療する医療」だけではなく、すべての人々が健康に暮らせる社会を地域とともにつくる役割が求められています。J-HPHは、その実践を学び合い、国内外へ発信するネットワークとして、今後も歩みを進めていきます。ぜひ多くのヘルスサービスの皆様にご参加いただき、ともに健康で幸福・公平・公正な社会の実現を目指していきましょう。
更新日:2026年8月21日





