出雲医療生活協同組合 大曲診療所
大曲診療所は、68年の歴史ある診療所です。医療生協ということもあり、地域の組合員さんをはじめとした住民の方を対象に、何十年も前から健康教室を行ってきました。2006年からは、家庭医が常勤医師となって地域の健康改善に取り組んでいます。
医師の間では以前から、地域の健康活動で「知識のある医療者が有難いお話をして、住民がそれを拝聴する」というスタイルに違和感がありました。スタッフみんなで健康活動について学ぶ中、権威勾配に沿った一方通行である点や、医学的正論が現場の問題を解決するとは限らなかったり、知識を日常生活の改善に結びつけにくかったりすること、教育レベルや意識の高い人がより恩恵を受けやすく健康格差の拡大を招く可能性などを知りました。
その上で、学びは自分の参加している社会の日常的な経験から行われること、学びや知識は日常的な活動が根ざす状況の中にあることを知り、知識の獲得・伝達・操作は文化的社会的文脈の中で考えることが大切だと考えるようになりました。
そこで、数年前から行っているのが「教えない健康教室」です。基本的に知識の伝達はしません。最近はパワーポイントも使用しません。「認知症について」「終末期について」などお題に設定した健康問題について、地域の方や診療所のスタッフが一緒になって色々と意見を出し合い、それを模造紙に書き込んでいく、といった教室です。この教室では、参加者それぞれがお題になった健康問題について持っているイメージや考えを知ることができます。
もちろん、医学的に必ずしも正しいとは言えない意見も出されますが、間違いを訂正するというより「自分はこう思うけどな~」「こういったことも言われているみたいだよ」といった形でのより正確な情報提供を心掛けています。こうした意見交換を通じて、健康問題への理解や対応力を身につけてほしいと考えています。検証はしていませんが。
今後の活動については、認知症や寝たきりにならないために・・といった内容も良いのですが、認知症蔑視やエイジズムの裏返しになってしまう可能性を危惧します。
加齢や認知症、死などに対する蔑視や拒否感、恐怖などをテコにした活動ではなく、これらを受け入れることも含めた健康教室を行っていきたいと考えています。
大曲診療所 健康教室の様子
NEWSLETTER No.14 JUNE 2020