公益社団法人北海道勤労者医療協会 勤医協苫小牧病院
SVS(ソーシャルバイタルサイン)の取り組みを継続して
私たちは2013年、当院に通院していた一人暮らしの高齢女性の孤独死を経験しました。この女性はあるとき予約外来に来院せず、連絡が取れない状態でした。その際に病院が家族の存在や連絡先を知るまで数日を要し、地域包括支援センターが訪問した時には自宅ですでに亡くなっていました。当院の看護師はこの女性の物忘れが進行していることに気が付いていましたが、家族との連絡調整や介護保険の申請には至っていませんでした。
この教訓から、患者さんの変化に気づいたときに必要な支援者との連絡調整がスムーズに行えるよう、連絡先を把握しておく必要があると考え、2014年から緊急連絡先など「SVS調査」を開始し、患者さんへの聞き取り件数は1,400件を超えました。
SVSはその方の生活背景や家族歴、緊急時の連絡先や、社会とのつながりなど、その方が社会の中で生きていくために必要なライフラインをソーシャルなバイタルサインと表現したものです。
当院では集積したSVSデータを職員同士で共有、電子カルテ内にも必要な記録をしています。あわせて、その方が何らかの原因で倒れた場合に当院からご家族に連絡が取れるように、診察券に貼付する「連絡先シール」の普及をすすめています。
Aさん80代女性は一人暮らしで、糖尿病のため定期通院していました。これまで予約に遅れることはありませんでしたが、その日は予約時間に姿を見せませんでした。
職員が自宅に何度も電話連絡をしましたがつながりません。診療時間は終了し、夜になっても連絡が取れず、心配になった職員がSVS調査で聞き取りをしていた緊急連絡先の娘さんに連絡し、様子を見に行ってもらいました。
1時間後、娘さんから連絡があり、市内の総合病院に救急搬送されたことがわかりました。Aさんは午前中に入浴したが浴槽から出られなくなり、娘さんが到着するまで8時間以上、浴槽の中で動けなくなっていました。退院後は同じことが起きぬよう、ヘルパーの導入やデイサービスでの入浴などが検討されました。
SVS調査で緊急連絡先を把握していたことで、患者さんが大事に至ることはありませんでした。私たちの取り組みが患者さんを守ることにつながったと確信しています。当院はこれからも住み慣れた自宅で安全に、そして安心して暮らし続けることを支援していきます。
NEWSLETTER No.18 SEP 2021