医療生協さいたま生活協同組合 埼玉西協同病院
「その人の大切なものを守るために」
― 地域包括ケア病棟における「人生会議の日」の取り組み ―
「なんで今そんな話をするの?」
話し合いの場をつくろうとするたびに、そんな空気を感じることがありました。人生の最終段階における医療やケアについて話し合うことの大切さを感じながらも、「死」や「最期」を話題にすることへの心理的な抵抗感は、患者さんやご家族だけでなく、医療者側にとっても根強くあります。アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは、将来の医療やケアについて、本人が家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、意思を共有するプロセスです。
2018年に厚生労働省が「人生会議」という愛称でその普及啓発を推進して以来、当院では、そのような現状と向き合いながら、ACPの普及と実践に取り組んできました。
取り組みのあゆみ
2018年に厚生労働省がACPの愛称として「人生会議」を提唱したことを受け、当院ではまず地域共通のエンディングノート「しっとこノート」を作成しました。患者さんや地域住民、職員に向けて説明会・配布・記入支援を行いましたが、活用は限定的で、患者の意向把握には依然として困難が伴いました。
関心はある、でも話し合いには至らない。その最も多かった理由は、「きっかけがない」「何を話せばよいかわからない」というものでした。必要なのは、情報を届けることではなく、「話し合うきっかけ」そのものをつくることだと気づきました。
「人生会議の日」の誕生
2023年10月より、地域包括ケア病棟の集団リハビリの時間を活用し、毎月第4火曜日を「人生会議の日」として、看護師とリハビリ職が協働でACP学習会を開始しました。当初は講義形式で実施し、多くの患者が参加しやすい場となりましたが、一部の患者が不快感から退席するなど、死を話題にすることに対するタブー意識のような文化的背景の影響も見られました。2025年2月参加者同士の対話を重視した「もしバナゲーム」を導入。この転換が、活動に大きな変化をもたらしました。もしバナゲームとは、「痛みがない」「家族の負担にならない」など、人生の終わりに関わる価値観が書かれた36枚のカードです。
参加者が自分にとって大切と思うカードを選び、優先順位をつけながらグループ内で語り合うことで、「自分が大切にしていること」を自然に言葉にすることができます。
当院では4人1組で対話を深める「ヨシダルール」を取り入れ、参加者が自分の人生を振り返り整理することができるよう、安心して語り合える場づくりを工夫しています。形式を対話型に変えたことで、場の雰囲気は大きく変わりました。
「自宅に退院したい」と話されていた患者さんが「母と最期まで一緒に過ごしたい」と母に対する想いを静かに語り始めました。参加者全員がうなずき、優しく言葉をかけ合う。そんな場面が、自然に生まれるようになりました。ACPはともすれば、医師や看護師だけの役割と捉えられがちです。
しかし日常的なリハビリの関わりの中で、リハビリ職は患者の生活の場に近い立場にあります。その自然な距離感が、「話し合うきっかけ」を生み出す力になることを、今回の活動は示してくれました。多職種がそれぞれの専門性と持ち味を生かしてACP支援に関わることで、支援の幅は大きく広がります。
これからへ向けて
一方で、課題も残っています。学習会が一時的な関わりで終わってしまわないよう、入院中・外来受診時・退院後など、日常のさまざまな場面で継続的に対話の機会が求められています。この取り組みをさらに地域へと広げ、ACPが特別なものではなく、日常の中で自然に語られる文化として根付いていくことを目指しています。
2020年版HPH基準:
基準3 住民中心のヘルスケアおよび利用者参加の促進
副基準 3: 患者と医療従事者のコミュニケーション 3.3.1.私たちの組織は、患者と家族が自身のケアにおいて積極的な役割を果たすことを支援するための主要ツールとして、患者中心のコミュニケーションおよび共同意思決定(SDM)を実施します。
報告:泉谷 元子氏(医療生協さいたま生活協同組合 埼玉西協同病院
リハビリテーション科 作業療法士)
1750-0016 医療生協さいたま生活協同組合 埼玉西協同病院
NEWSLETTER No.32 MAY 2026





